トップマネジメントダイアログ 2030年の世界に必要な企業へ ~持続可能な開発目標(SDGs)と住友理工の経営 株式会社大和総研 調査本部 主席研究員 河口 真理子 IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所]代表者 川北 秀人 × 取締役会長 西村 義明 社長 松井 徹 執行役員副社長 尾崎 俊彦

ステークホルダーとの対話
株主・投資家、お客様、取引先、従業員、地域社会、地球環境

※ 本ダイアログは、住友理工「統合報告書2017」に掲載されたものです。
※ 肩書きはいずれも当時。

13年後を自分事としてとらえられるか

西村住友理工グループは創立100周年を迎える2029年を見据え、2016年「2020年 住友理工グループVision」(以下、2020V)を策定し、財務目標に加えて今回初めて非財務KPI※1を設定しました。また、私たちは住友事業精神、住友理工グループ経営理念を柱に、長期的な視点による経営を行っています。本日は2人の専門家にご参加いただき、国連加盟国が全会一致で採択した持続可能な開発目標(SDGs※2)を、そうした私たちの企業経営の中でどのように取り扱い、具体的にどのような対応をしていくべきなのか、率直な意見交換ができればと考えています。

川北住友理工にとって2029年は100周年という節目の年であり、SDGsにとっても2030年がゴールです。その時世界がどうあるべきか、住友理工がどのように変わっていなければいけないのかが問われますね。世界と自社の姿を重ねた時に、力を発揮しなければならない領域や事項は、より鮮明になります。

河口サプライチェーンを巻き込んでSDGsを踏まえた取り組みが当たり前になっていくでしょう。ある自動車メーカーでは既にSDGsに関連するビッグプロジェクトの動きもあります。

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西村この1年で、英国のEU離脱問題があり、米国ではトランプ氏が大統領に当選し、その米国がCO2の新たな削減枠を決めたパリ協定※3から離脱すると宣言しました。その影響はいかがでしょうか。

川北米国は2020年まではパリ協定の枠組みから抜けられません。アメリカ第一主義の政策で、目先の雇用は守られるかもしれませんが、長期的な成長の機会を他国に譲ることになると、同国内でも指摘されています。大手企業も大学も地方自治体も、大統領の判断に必ずしも賛同しておらず、自動車業界でも脱炭素の動きは加速していくでしょう。

松井SDGsのなかでも「気候変動」をはじめとした環境についてのテーマは比較的分かりやすいかもしれませんが、なかなか実感できない分野もあります。従業員にSDGsを腹落ちさせるには、どうアプローチしたら良いでしょうか。

川北「あなたは2030年に何歳になっていますか」という問いかけでしょうね。2030年は13年後。現在20歳代や30歳代の従業員が、会社を背負う稼ぎ頭です。その時、自分はどこの誰を顧客にしているのか、その人たちは何に困っているのか。自分と社会の関係を思い描いてもらい、自分自身が未来の担い手であることを放棄しない姿勢を持っていただくことが重要です。

河口今、数字の責任を持たされている40歳代や50歳代の中間管理職には余裕がありません。管理職になる前の若い方々に直接働きかける機会を作らないと理解は広がらない可能性があります。先日、ある大企業の社内報のインタビューを受けました。半分くらいはSDGsの話題が占めましたが、従業員の方が読んでもわかるようかみ砕いた内容にしました。10万部近い部数で、英語版と中国語版も作るそうです。社内報というのは家族も含めて意外と読まれています。

西村当社にも社内報があります。パリ協定の影響もあり、環境問題の重要性について特集を組むことにしていますが、SDGsについても触れたいと思います。

※1 KPI:
KPIはKey Performance Indicatorの略であり、主要業績評価指標のこと。
※2 SDGs:
Sustainable Development Goalsの略:持続可能な開発目標。人類が2030年までに解決すべき17の目標と169のターゲットからなり、企業の積極的な参加が強く期待されている。
※3 パリ協定:
2015年にパリで行われた気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択された地球温暖化防止に関する国際条約。世界的な平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度以内に抑える努力することを掲げている。

社会の激動を予測し、先回りできるか

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河口SDGsというのは遠い世界の話ではありません。自社の取り組みをSDGsの視点でスクリーニングすると、従来見えなかったリスクが見えてきます。例えばフランスのアパレル系大手企業ではカシミヤの素材となるカシミヤ山羊の絶滅危機にいち早く気付き、他社に先んじた資源確保に目を向けることができました。天然ゴムやナフサなどの資源についても新たなリスクが見えてくる可能性があります。

尾崎社内には当社の事業とSDGsがどのようにつながっているのか、一度スクリーニングしてほしいと言っています。事業との結びつきがわかると従業員の理解は一気に進むと思います。

川北パリ協定もあって、自動車業界の主要企業は、ガソリンから水素・電気へ、エンジンからモーターへという長期方針を相次いで発表しています。10年後には「自動車」という言葉は、「モビリティ」に変わっているでしょう。空を飛んでいるかもしれません(笑)。

河口これまでの経験則を無視するほどのスピードで変化が加速しています。SDGsを考える時、私たちは今ある社内の技術を社外の変化に合わせるという発想よりも、さまざまな社会課題が先にあって、そこを起点に住友理工グループが変わるという発想でないと対応できないかもしれません。

川北そうですね、現在の接点だけで見ないことが大切です。途上国で一日がかりで“水を運ぶ”作業を担わされているのは、女性や子どもたちです。その教育を保障するためには、水を汲んで運ぶという作業を軽減しなければなりません。一滴の水も無駄なく汲み上げ、素早く運ぶために、どんなソリューションが有効か。現在は課題とされてしまっていることから、新たな事業のチャンスが浮かび上がります。

松井先進国の発想だけでは、こうした途上国の課題解決にはつながらないというわけですね。

川北もうひとつ、価値を創造するのは内部か外部か、という考え方も必要です。調達から使用まで含めたバリューチェーンで考え、CO2で言えば、自社内での生産時よりも、「使用時」に排出量を減らすための機能や製品を世に送り出していただきたいと思います。

河口私は貴社の「電気を通すゴム」である「スマートラバー」にとても期待しています。AIと組み合わせるなどして、自動車の枠を超えて、高齢者や病気の方の介護や、レジリエントな都市の構築などにも貢献できる可能性があるのではないでしょうか。

西村私たちはコアコンピタンスである高分子材料技術・総合評価技術をベースにお客様のニーズを先取りした提案を積極的に行うことにより、防振ゴムや自動車用ホースでトップクラスのシェアを誇るようになりました。これまでは自動車の乗り心地などが中心でしたが、このようにこれからはお客様の背景にある社会課題を踏まえて、自動車の枠を超えて解決策を「創案」できるかが勝負ですね。

川北他社との協働によって、そのコアコンピタンスを磨くことも大切ですね。他社との効果的な連携は待っているだけではだめで、まさしく「創案」が必要です。現実的な技術だけでなく、「こういったことができませんかね」ということを言える関係や接点づくりが大切です。

世界の動きに取り残されないために

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松井今年3月に米国の首都ワシントンでインターナショナル・コーポレートガバナンス・ネットワーク(ICGN※4)の会合に常務執行役員の前田と参加しました。海外の投資家が集まる会合で、SDGsとESG※5投資がテーマとしても挙げられており、日本の事業会社では当社が唯一の参加でした。日本ではROE重視の経営が注目を集めていますが、投資家の本音はどのあたりにあるのか、直接聞いてみたいと思いました。

河口投資家が集まる場所に経営トップが率先して参加するというのは素晴らしいことです。

松井参加した投資家の発言を聞いていると、地球的な課題の解決に強い関心が向けられているとわかりました。また私たちの住友事業精神を中心とした長期視点の経営方針もご理解いただけました。

河口最近は投資家がESG投資の真ん中にSDGsを据えようとしています。なぜかというとSDGsは国際共通言語でもあるわけです。GPIF※6もつい最近日本版スチュワードシップ・コード原則を発表しましたが、彼らは運用会社にガバナンス体制を整えるように要求しています。これまでは「PRI※7に署名してくださいね」くらいだったのですが、体制を整備し、人材も育ててしっかりやるように、ということです。ESGを考慮した投資も要求されていますが、そこでSDGsがテーマとなっています。運用会社もSDGsベースに評価体制を作らざるを得ません。投資家との対話でもどんどん質問が出てくるはずです。

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松井ISS※8ともランチョン・ミーティングを行いました。ROEだけでなく、ESGと両方見ているということでした。また、最近は長期投資にスタンスを切りつつあるとも語っていました。

西村これまでだと、米国に行っても工場だけを見て帰っていました。これからは、より外部の方の話を聞き、グローバルな視野で経営の舵取りをしていくことで、世の中の動きから取り残されないようにすることが肝要と考えています。

尾崎「雇用や経済成長」という課題もSDGsにはあります。欧米の先進国が中心となって進めてきた規制には、「格差」や「貧困」を解決するために必要なものも多いのですが、ただ規制を受け入れるだけでは先進国の産業の伸びしろは縮む一方です。このあたりはどうとらえたらよいのでしょうか。

川北SDGsには、先進国がビジネスでイニシアチブをとるための種が、社会課題という形で含まれています。もはや世界各地の労働力の賃金格差だけでは、成長できません。人権や環境などは、欧米から関心が高まりましたが、中国も水や大気の問題に本気で取り組み始めています。それだけ切迫しているのです。同様にSDGsのなかにこそ、今後の伸びしろの大きい成長の種があり、こうした分野における人の育て方やエンパワメントが重要です。若い人材やさまざまな国の人が活躍できるよう、チャレンジしていただきたいですね。

※4 ICGN:
International Corporate Governance Networkの略でコーポレートガバナンス研究会。コーポレートガバナンスの実践を遂行するために支援・助言を行う。
※5 ESG:
Eは環境(Environment)、Sは社会(Society)、Gは企業統治(Governance)を意味する。企業が事業活動を展開するうえで配慮や責任が求められる課題。
※6 GPIF:
日本における公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人の略称で世界最大の年金基金。
※7 PRI:
Principles for Responsible Investment(責任投資原則)の略。国連環境計画・金融イニシアチブおよび国連グローバル・コンパクトとのパートナーシップによる投資家イニシアチブ。GPIFは2015年9月に署名をした。
※8 ISS:
Institutional Shareholder Services Inc.の略で議決権行使助言会社の世界最大手。
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住友事業精神とSDGsを結びつけ、伝える

西村 私たちには貴重な教訓があります。住友の2代目総理事の伊庭貞剛(いばていごう)が別子銅山の支配人になった当時、長年にわたる開発で、山全体がはげ山になり、そのせいで洪水が起きたりしました。そこで年に100万本の植林をやろうと言い出し、緑の山に戻しました。100年以上も前にそうした取り組みを行わせたのは住友事業精神そのものであり、私自身はSDGsと住友の事業精神は同根だと思っています。これを従業員にどのように伝えるかが課題です。

川北SDGsと事業を結びつけるアイデアを募る社内表彰制度はいかがでしょうか。

河口若手を中心にして自由闊達なブレーンストーミングなどもよいかもしれません。

松井自動車関連では3カ月に1回ほどブレーンストーミングをやっています。顧問の方を呼んだり、海外からアドバイザーが来たり。最近は電気自動車がどうなっていくのかといった話し合いも行っています。SDGsでもこうした動きが可能かもしれませんね。

河口従業員に限らず、取り組みを伝えるという意味では、スイス・ジュネーブで毎年行われている「国連ビジネスと人権フォーラム」で、貴社のCSR推進室長(女性)が日本企業として初めてセッションで登壇しました。国際的な舞台で日本人女性が発言するとかなりの注目を浴びます。

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川北そうしたすばらしい動きは、短文で構わないので、英文のリリースを出すと、海外からも反響も得やすいでしょう。

松井3年前から始めた学生小論文アワードはソーシャルメディアだけの募集ですが、大きな反響がありました。2016年は106作品の応募があり、今年はさらに上回りそうです。

川北そのような学生とのかかわりも含め、性別や人種の違いだけでなく、年齢層や文化・価値などの多様性を受け入れ、多様な人材が活躍する場づくりが大切ですね。貴社も海外売上高比率が高まっていますが、現地採用の人材育成も重要です。

尾崎中国やタイにはコーポレートの拠点があり、従業員教育はそれぞれの拠点でやるようになっています。多様な人材の育成に向けて徐々に成果は上がっています。

河口私は住友理工とかかわりを持つようになって今年で5年目になります。伺う度に風通しのよい会社だと実感しています。この種の報告書はどうしても真面目なものになりがちですが、もう少し内容を組み替えたり、経営の個性が出せるといいと思いました。例えば、経営陣がICGNに参加した話などは積極的に発信していいと思います。

川北BtoBの会社ですと、あえて外部に発信する必要がないと誤解している企業もあります。外部への発信の効果は、むしろ従業員、特に営業ご担当の皆さんに対してでしょう。「当社はこんなこともやっています」とお客様に言えるだけでなく、お客様の方がそれを知っていて、話がスムーズに進むことも多くなるでしょう。非財務情報こそ、さまざまな形でニュースとしてアピールされることが大切だと思います。

松井SDGsをどう会社の経営に取り入れていくのか、よくわからないところがありましたが、創業100周年の際に激動する社会に適応できる企業として、生き残りを賭け、SDGsを正面からとらえて成長への活力としてきたいと思います。

西村先ほどもお伝えしましたが、SDGsと住友事業精神は強く結びついていると直感しています。ステークホルダーと対話をしながらこの結びつきを具体化し、社内浸透を進めていくとともに事業展開に結びつけていきたいと思います。

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