トヨタ自動車「bZ4X」に採用。
BEV向けモーターマウント開発。
世界No.1メーカーの力を結集。
防振ゴム開発プロジェクト
トヨタ自動車初のBEV(電気自動車)として2022年に発売され、大きな話題を集めた「bZ4X」。この「bZ4X」には、住友理工の防振ゴムやホース、制遮音品などが搭載されています。このプロジェクトストーリーでは、「bZ4X」の搭載された防振ゴム(モーターマウント)の開発ストーリーをご紹介します。
石川 亮太 2006年入社
防振事業本部
防振技術統括部第2技術部
理工学研究科出身
川井 基寛 2007年入社
防振事業本部
防振技術統括部第2技術部
化学専攻出身
藤田 香澄 2011年入社
防振事業本部
防振技術統括部第2技術部
システム工学科出身
永田 雅樹 2018年入社
防振事業本部
防振技術統括部第2技術部
化学バイオ工学科出身
MISSION
世界No.1メーカー
として、
このマウント
開発は
ゆずれない。
100年に1度の変革期。CASEと称される次世代技術が進化し、自動車業界は今、大きく変わろうとしている。2010年代後半にはトヨタ自動車がBEVの開発に着手。電気モーターの動力で走行するBEVでは、ガソリン車向けのエンジンマウントとは異なるモーターマウントを、新たに開発する必要があった。
そして、トヨタ自動車の車両にエンジンマウントを長年提供してきた住友理工に、マウント開発の声がかかった。しかし、声をかけられたのは住友理工だけではない。競合とのコンペであった。防振ゴム世界No.1メーカーの住友理工としては、トヨタ自動車初となるBEVのモーターマウント開発を他社にゆずるわけにはいかない。
負けの許されないこの戦いのプロジェクトリーダーを任されたのは石川亮太。豊富なマウント開発の経験、そして数々のコンペに勝利してきた実績を買われ、リーダーに就いた。コンペに勝ち抜き、モーターマウントの開発を成功させることが、石川率いるプロジェクトチームのミッションだ。
社内の精鋭を結集し、
ゼロからのマウント開発に挑む。
社内の精鋭を結集し、
ゼロからのマウント
開発に挑む。
「最高の機能と仕様を限られたコストで実現する必要がありましたが、私たちなら必ずできると信じていました」。石川はBEV用モーターマウントの開発について、そう振り返る。コンペまでの期間は半年。部署の垣根を超えて精鋭を集め、プロジェクトチームを組織した。その際にチームに加わったメンバーのひとりが藤田香澄だ。
「初めてのBEV開発のため手探りの状態で、トヨタさんとしても当然、仕様を固めきれていませんでした。そのため、私たちからのアイデアも積極的に盛り込むことで、完成度の高いモーターマウントをご提案したいと思いました」と藤田は語る。
ガソリン車と比べてBEVは静音性が高く、車内では小さな振動、ノイズでもはっきり感じるため、マウントで振動を吸収できなければ、快適性を大きく損なってしまう。そのため、モーターマウントはエンジンマウントより高い静音性を求められる一方で、防振性能を向上させるために金具の剛性などを高めると重量が増してしまう。求められる仕様を満たすことはできない。石川と藤田は試行錯誤を繰り返し、一つひとつ課題を乗り越えていった。
また、プロジェクトチームには、普段は足回りの防振ゴムの設計を担う部署のリーダークラスのメンバーが参加していた。これまでエンジンマウントを手掛けてきた技術者と足回りの防振ゴムを手掛けてきた技術者が、それぞれの得意分野を活かした役割を担い、全6点のマウントの設計を進めた。「住友理工の総力を結集したプロジェクトチームなので、提案力を大きく高められました」と石川は話す。
自信を持って提案できるモーターマウントの設計が進む一方で、もうひとつの大きな障壁が立ちはだかる。マウント製造にかかるコストだ。設計で高剛性や軽量化、コンパクト化を実現しても、コストが高ければ採用される見込みは薄い。コスト面でも競争力を創出するには、原価構成率の高いアルミブラケット金具の原価を低減する必要があった。その解決策として、石川は新たな仕入先の開拓を決めた。
「1円でもコストを抑えるために、中国で仕入先を探しました。現地に足を運び、住友理工が求める品質を伝え、安定した量産体制をいかに構築するかについて議論を重ねました。その結果、信頼できるメーカーにパートナーとなってもらうことができました」
開発秘話
コンペに勝利し、
全点受注。そこから
新たな挑戦が始まった。
モーターマウント6点すべての受注が決定。コンペは住友理工の勝利に終わった。製品の性能や仕様だけでなく、部門の垣根を超えたかつてない開発体制も高い評価を得ることができた。しかし、喜びに浸っているわけにはいかなかった。その理由を藤田はこう話す。
「コンペ後の量産化に向けた開発にかけられる期間は半年程でした。通常、エンジンマウントの開発には1年以上の期間をかけています。初めてのモーターマウント開発でもあるため、大きなプレッシャーがありましたね」
短期間での開発を成功させるために欠かせないもの。それは、BEVプラットフォーム全体の開発を進めるトヨタ自動車との綿密な調整だ。従来の開発以上に、コミュニケーションの齟齬が致命傷となってしまう。
そんななか、プロジェクトチームに心強いメンバーが加わった。経験豊かな技術者である川井基寛が、モーターマウント開発の調整役を担うために、トヨタ自動車へ出向することとなった。
一方で、新たな障壁がプロジェクトチームに立ちはだかる。世界的に感染が拡大した新型コロナウイルスだ。当時の状況について川井はこう語る。
「出社もできないなかで、トヨタさんや中国の生産拠点とのコミュニケーションに苦労しました。日々求められる仕様が変更していくなかで、従来のように顔を合わせての打ち合わせが不可能でしたから」
そこで川井は、まだ一般的でなかったオンライン会議ツールやチャットも積極的に活用し、トヨタ自動車と住友理工のコミュニケーションを活性化させた。また、渡航制限で現地を訪れることができないため、中国の生産拠点とはWEBカメラを用いて工程の確認などを進めた。求められる耐荷重が1.5倍になるなど、開発では大きな仕様変更も必要になったが、それらの難題をクリアし、プロジェクトチームはモーターマウント6点の開発をやり遂げた。
FUTURE
モーターマウントは
さらなる進化へ。
革新的なアプローチで
設計に挑む。
2022年5月、トヨタ自動車初のBEVとなる「bZ4X」が発売となった。そして、「bZ4X」に用いられたBEV専用プラットフォームは今後、さまざまな車種に活用されることが予定されている。そうしたトヨタ自動車のBEVの発展にも、住友理工が果たせる役割は大きいはずだ。プロジェクトリーダーの大役を果たした石川は、こう話す。
「防振ゴムのリーディングカンパニーである住友理工は、CASEの時代においても、“快適”で“グリーン”な社会の実現に貢献していけるはずです。モーターマウントの分野でもNo.1メーカーの地位を築けるように、今後も挑戦を続けていきたいですね」
トヨタ自動車のBEVに向けたモーターマウント開発は今、川井がプロジェクトリーダーを引き継いでいる。現在開発が進む新型BEVのモーターマウントの設計を担うために、入社5年目の永田雅樹もプロジェクトに加わった。
「現在開発中の新型BEVでは、モーターマウントのさらなる軽量化が求められました。『bZ4X』でも限界まで軽量化に挑んでいたなかで、それをより進化させるために、前例のない設計にチャレンジしています」
永田が挑戦している新たな設計手法とは、“なにを削ぎ落とせるか”という通常の軽量化のアプローチではなく、まっさら状態から“どうしても必要なものはなにか”というアプローチで設計していくというもの。その設計手法で誕生したモーターマウントは、すでに試作段階に入っており、量産化に向けて細かな課題を解消している段階だ。
出向経験で視野が広がったと語る川井には、自身の知見や住友理工が蓄積してきた技術力、そして永田たち若手の自由な発想を融合させ、モビリティの快適な移動空間を発展させていきたいという想いがある。
「今後は、防振ゴムという枠にとらわれない、新たな目線でのイノベーションが必要になってくるでしょう。そうした時代においても私たちの強みやノウハウは活かしていけるはず。今後もベテランと若手が一体となってイノベーションに挑戦していきたいですね」