PROJECT STORY 02 最後まであきらめない。その気持ちが、
「世界初」の技術開発を成功させた。

「樹脂一体フィラーネックモジュール」開発プロジェクト

金属配管とゴムホースによって構成されていた部品を樹脂化し、車両の軽量化に貢献する。そんな革新的な技術開発に取り組んだ、開発プロジェクト。世界初の技術に挑み、中国、タイ、メキシコの海外3拠点での生産立ち上げを成功させました。「樹脂一体フィラーネックモジュール」の量産化実現までの歩みをご紹介します。

PROJECT MEMBERS

  • 1991年入社

    宮島 敦夫

    自動車用ホース技術統括部 第2技術開発部
    機械工学科出身

  • 2006年入社

    下條 誠

    自動車用ホース技術統括部 第2技術開発部
    機械知能工学専攻

  • 2006年入社

    松原 雄介

    第1自動車営業部
    文学部 史学科出身

  • 2007年入社

    齋木 計宏

    自動車用ホース生産技術部
    物質工学科出身

  • 2008年入社

    福安 智之

    自動車用ホース技術統括部 第2技術開発部
    機能材料工学科出身

SECTION 01

世界初の技術を実現し、
競合メーカーに打ち勝て。

「開発をやめるのなら、今しかないよ」
自動車メーカーとの打ち合わせの場で、本気とも冗談ともつかぬ言葉を投げかけられた。
住友理工が開発を中断したとしても、今ならまだ自動車メーカーとして別の手立てを講じる時間がある。しかしここから先の段階に入ったら、もう引き返すことはできない。世界戦略車の量産スケジュールに遅れが生じることなど、許されるはずがないからだ。
しかし、本当にスケジュールに間に合うのか。住友理工として初めて取り組む技術。量産化を控えたこの時点でもまだ、見通しは立っていなかった。「絶対に成功させます」という自信のある返事ができないまま、下條誠は打ち合わせ場所を後にした。

このプロジェクトがどのように始まったのか。ストーリーは、営業担当の松原雄介が新規製品の情報を得た2012年の冬まで遡る。対象となったのは、「フィラーネック」と呼ばれる部品。フィラーネックとは自動車の給油口から燃料タンクまでをつなぐ配管で、従来は金属配管とゴムホースによって構成されていた。しかし昨今の環境規制強化により、排出ガスの低減を求められている状況がある。フィラーネックを樹脂配管にすることによって軽量化し、車両の燃費向上に貢献すること。そして、高バリア化を実現すること(燃料が逃げにくい構造にすること)が求められていた。
住友理工は2012年の時点で、樹脂一体フィラーネックを製品化した実績はない。一方、すでに実績のある競合メーカーがいたため、この時点で受注の確率は高くなかった。この状況を覆して受注につなげるには、どうしたらいいのか。松原と技術部門の担当者は、逆転の突破口となるポイントを見つけた。それは、「樹脂フィラーネックを燃料タンクの連結部に直接溶着する」という、世界で誰も手がけたことのない技術を実現させることである。
それまでチューブと燃料タンクの連結部には、ジョイント部品を使って固定する方法が採用されてきた。そのジョイント部品をなくしてチューブ自体をタンクに溶着すれば良い。まっすぐな樹脂チューブの端をラッパ状(フレア形状)に広げて溶着するというアイデアを顧客に伝え、試作のチャンスを獲得した。

SECTION 02

中国、タイ、メキシコ。3か国での生産立ち上げ。

「初めて取り組む技術ですが、当社ならできます!」
松原はそう言い切ったが、この時点では製法も設備も金型も、開発に必要なものは何一つ用意されていなかった。そんな開発初期の段階からこのプロジェクトに関わったのが、福安智之である。「何をどう作るのか」がまったく見えていない中、2013年から試作に着手した。
「樹脂チューブに熱をかけてラッパ状に広げる。そのアイデアだけはありました。でも、実際に試作してみると、形が広がることは広がるのですが、タンクとの接続面が平らにならない。それをお客様に見せても、当然のことながら納得していただけません。最初から途方に暮れました」プロジェクトリーダーの下條が開発に関わり始めたのも、同じ頃だ。世界初の技術に挑むことの難しさを、福安とともに痛感した。そもそも材料自体が初めて扱うものなので、熱を加えて加工するにしても、どの温度でどれだけ時間をかければいいかが分からない。何度型を作って試作を行っても寸法が安定しない。材料の特性をつかんで品質を安定させるためには、あらゆる条件での試作をしらみつぶしに行うしか方法がなかった。 困難な状況はさらに続く。

ようやく試作の目途が立ったと思った頃、設計変更を余儀なくされたのだ。一つの課題を解決すると、また次の課題。しかしその間にも、量産立ち上げのリミットは刻々と迫ってくる。生産技術担当の齋木計宏は、ちょうどそんな頃にプロジェクトに加わることになった。
「私が加わったのは2014年の1月、『もう量産化に着手しなくてはいけない』というタイミングです。試作では何となく形にすることができていましたが、それを量産性のある製法や工法に変え、製品自体もさらに良いものにしなくてはいけない。そんな難しい場面でした」
この製品の量産化は、中国、タイ、メキシコの3か国で生産を立ち上げるという、難易度の高いもの。日本で量産設備を作ってそれを海外拠点に送る予定だったが、肝心の溶着部に関わる設備が間に合わず、不完全な状態のまま設備を輸送し、現地で改造することになった。

SECTION 03

「最後は絶対にやってくれる」と信じていた。

海外3拠点での生産立ち上げ。当初は中国、タイ、メキシコの順番で行う予定だったが、量産の準備が遅れ、中国とタイの立ち上げを同時に行うことになった。この時期、齋木はほぼ日本を留守にし、3つの国を飛び回って加工条件の調整などを行った。温度や湿度などあらゆることが異なる中、同一品質のモノづくりを実現するのは容易ではない。生産技術部門の要請を受けて福安が急きょ中国やタイに飛ぶなど、通常の職域の枠を超えた対応で乗り切ろうとした。プロジェクト責任者として指揮にあたった宮島敦夫は、こう振り返る。
「その時、私に求められたのは、部門の枠組みを取り払うようなリーダーシップです。まだ実現できていないことに対し、『どうすれば解決できるか』というストーリーを示し、関係者を同じ方向に向かせることを意識しました。山積みの問題を前に心が折れそうになっているメンバーにやる気を出してもらうことが、一番苦労した点です」

前向きな姿勢を前面に出した、宮島の指示。進むべき方向を示し、メンバーの精神的負担を減らすことに注力した。そしてその頃、顧客対応のために日本にいた下條も、プロジェクトリーダーとして重要な局面に立たされていた。加工条件などを判断するために齋木や福安から送られてきた製品サンプルを評価し(寸法などの単純な計測は海外拠点で行うが、材料自体の評価は日本で行う必要がある)、「現地でどんな問題が起きているか」を正確に把握するよう務めた。
「海外で起きていることを、私が自分の目で確かめることはできません。その状況で重要なことは、上がってくるデータを信じて状況を分析し、現場と同じ問題意識を持つことです。日本、中国、タイ、メキシコと4拠点で連携しながら加工条件を決めていくのは大変でしたが、現地とのコミュニケーションを密にして、情報を共有しました」営業担当の松原は、この状況を複雑な気持ちで見守っていた。
「メンバーの苦労はもちろん感じていました。でも現実的なリミットは迫っているので、営業の立場としてはお願いするしかありません。かなり無理をなお願いをしたと思います。ただ、どれだけ厳しい状況でも『最後は絶対にやってくれる』と信じていました。彼らの底力を信じていたんです」

SECTION 04

働く人の底力が、住友理工の一番の強み。

彼らが長く険しい道を走り切ったのは、2016年1月。当初のスケジュール通り、量産を開始させることに成功した。住友理工にとって大きな成果となったのが、世界初の技術開発を成功させ、樹脂一体フィラーネックのメーカーとして市場に名乗りを上げたこと。自動車部品の開発には通常(既存の製品をベースにしたものであっても)、4年ほどの時間が費やされる。しかしこのプロジェクトでは、新規の部品開発を3年で成功させた。そしてもう一つ大きな成果と言えるのが、複数の部品を一体にする「モジュール化」を実現させたこと。変革が続く自動車業界の中で、モジュールメーカーとしての一歩を踏み出すことになった。
「少し前まで当社のレパートリーになかったものを開発して、一定のシェアを獲得するに至った。それを成し遂げたメンバーたちの頑張りは、すごいものだと思っています。それと同時に得たものは、お客様の信頼です。お客様と一緒に苦労を乗り越えることによって、信頼関係を深めることができた。そこには数字には表せない価値があると思います」と宮島。海外拠点を飛び回ってきた齋木もまた、このプロジェクトを「信頼」という言葉とともに振り返る。
「私がプロジェクトの最終局面で手応えを感じたのは、海外スタッフとの信頼関係を築けたことです。最初は意思疎通に苦労しましたが、自分の考えと熱意を伝え、相手の言葉にも関心を持って会話を重ねました。『現地のスタッフたちに苦労させたくない』と思って取り組んできたので、スムーズに製品が流れて安心してモノづくりができるようになった時は、本当にうれしく思いました」異なるスキルや個性を持ったメンバーが集まり、部署や国を超えてモノづくりに取り組んだ、このプロジェクト。真正面から困難にぶつかるその仕事ぶりは、住友理工らしい挑戦姿勢を体現したものだと言える。そして、このインタビューの最後をまとめたのが、営業担当の松原。彼の言葉が、プロジェクトメンバーたちの奮闘を総括するものとなった。
「当社の特徴は製品力や技術力などいろいろありますが、その中でも一番の強みは、働く人の底力、パワー。それに尽きると思います。お客様からは『困った時に最後に頼れるのは住友理工さん』と言っていただき、実際に期待に応えることができる。そのすごさを改めて感じたプロジェクトでした。他のどの会社とも違う当社の魅力を、多くの学生の方に知ってもらえたらうれしいですね」

INDEXへ戻る