PROJECT STORY 01 可能性は、ステアリングを握る手の中に。
自動運転の進化を支えるセンサー開発。

「ステアリングタッチセンサー」開発プロジェクト

住友理工は今、大きな変革期を迎えた自動車業界の中でCASE(コネクティッド、自動運転、 シェアリング、電動化)への対応を進めています。その中でも特徴的な事例となったのが、「ステアリングタッチセンサー」の開発です。新たな技術開発を実現した、4名のメンバーの取り組みをご紹介します。

PROJECT MEMBERS

  • 2001年入社

    中野 克彦

    自動車新商品開発センター 新商品開発室 主任研究員
    機械工学科出身

  • 2006年入社

    田原 新也

    自動車新商品開発センター 新商品開発室
    都市循環システム工学科出身

  • 2008年入社

    山口 俊幸

    自動車新商品開発センター 新商品開発室
    応用技術科出身

  • 2013年入社

    那須 将樹

    自動車新商品開発センター 新商品開発室
    工学系研究科機能高分子学専攻

SECTION 01

新しいセンサーの開発。
それはゼロから始まった。

めざす場所は決まっている。そこに行かなくてはならない理由もある。ただ、目的地までのルートは、自分たちの力で見つけなくてはならない。未知の製品開発を行う難しさと、それをやり遂げる手応え。「ステアリングタッチセンサー」の開発に挑んだ、技術者たちの足跡を振り返っていきたい。
ステアリングタッチセンサーとは、自動車のステアリングに内蔵してドライバーの状態推定を行うためのセンサー。ステアリングを両手で握っているか、ステアリングのどの位置を握っているかなど、ドライバーの状態を検知できることが特徴だ。なぜ、こうしたセンサーが必要とされているのか。背景にあるのが、自動運転時のステアリング保持の義務化に伴う「UN-R79」という法規制である(ヨーロッパでは2019年、日本では2021年の新車から規制対象となる)。自動運転レベル2~3においては、一定の条件下での走行はシステムが自動的に行うが、それ以外の場面や緊急時には、ドライバー自身がステアリングを握る必要がある。そこで重要な役割を果たすのが、ドライバーの状態推定を行うシステム(Hands off Detection System)だ。ステアリングを握る状態やポジショニングを検出し、自動運転から手動運転への安全な切り替えをサポートする。
このステアリングタッチセンサーに内蔵されているのが、柔軟で電気を通すゴム材料で作られた、SR(スマートラバー)センサーである。健康介護向けの製品を中心に使用されてきた独自のセンサーを応用し、住友理工が新たなセンサーデバイスを開発。静電検出技術などを開発するアルプスパイン(株)とステアリングメーカーなどが連携し、オープンイノベーション開発が進められた。

SECTION 02

すべての開発プロセスを並行して進める。

この開発業務を担当し、住友理工としての新しい試みを進めていったのが、自動車新商品開発センター新商品開発室のメンバーである。プロジェクトのリーダーを務めたのが、主任研究員の中野克彦。2008年頃の初期段階から新事業開発部門でスマートラバーの研究を手がけてきた技術者である。その後「ステアリングタッチセンサー」開発プロジェクトが本格始動した時からリーダーを務め、テーマ創出活動から事業化、量産化に至るまですべての業務を牽引していった。
「プロジェクトが実際に動き始めたのは、2016年に入ってからです。通常なら設計や材料開発などを段階的に進めていきますが、私たちはそれらを同時並行的に進めていきました。設計に入る段階で『量産工程をどういうイメージにするか』というところまでを決め、製品原価なども計算しました」

この時すでに市場では、他社のステアリングタッチセンサーが製品化されていた。その後を追って市場参入する以上、性能面でもコストの面でも他社製品を上回る必要がある。市場において「勝てる製品」とは、どういうものであるべきか。徹底的に分析を行い、製品のコンセプトを固めていった。
この時、リーダーの中野とともに先行品の分析やコンセプトづくりを行ったのが、那須将樹である。プロジェクトの最初期段階から関わり、設計要件の定義や製法開発を行った。
「先行品を調べるところから始め、それに対して当社がどういうものを作るべきかを検討していきました。その中でも特に苦労したのが、ステアリングの組付け、つまり『巻き方』に関するところです。この製品では静電センサーという寸法精度の高い部品をステアリングの表皮下に巻き付けますが、それを『どう巻くか』という知見が当社にあるわけではなく、お客様から指示されるわけでもありません。ステアリングの試作などを行う職人の方などに話を聞きながら、自分たちでゼロから作り上げていきました」

SECTION 03

「正解」はない。
だから現場でヒントを得る。

これまで一度も手がけたことのない製品。他部署を交えた分業体制を取り入れることは困難で、設計、工法の確立、評価などすべてのプロセスをメンバー自身の手で行う必要があった。
「このチーム自体が、一つのベンチャー企業みたいなものです。未知の製品を作る過程では役割を細かく区切って分業化することは難しく、必然的に自分たちですべてを行うことになります」と中野は話す。行うべきことが山積する状況で、2016年の4月からチームに加わったのが、試作掛の山口俊幸である。
「巻き方をどうするか、材料をどうするか、という部分を那須と私の2人で進めました。そうした業務を行う上で私が特に大切にしたのは、実際にモノを触りながらトライを重ねることです。試作の中で形状を変更する際、ミリ単位で調整していく必要があるのですが、自分の目で見て自分の手で触ることによって、『こうすればシワを生まずに巻けるんだな』という気づきを得ることができました」山口が語る、現地現物の大切さ。

それと併せて重要になったのが、社内外の各関係者とのコミュニケーションである。2017年10月に研究部門から異動してプロジェクトに加わった田原新也は、製品設計における基礎設計から量産化設計までを手がけた。住友理工にとっても関係企業にとっても初めてのことばかりが起きる中、お互いに膝を突き合わせて話し合える関係づくりの大切さを実感した。
「このプロジェクトでは、自分たちで『こういうものが良いのでは』という仮説を立て、それをお客様に提案しながら形にしていく必要がありました。それを行う上で重要になったのが、近い距離で話し合える関係づくりです。お互いが困っていることをどう解決していくのか。そうした課題のすり合わせを効率良く行うことによって、素早い問題解決ができたと思います」膨大な数の試作と評価。立場の異なる各企業との意識共有。特に、これまでずっと手作業によって組み付けが行われてきたステアリングに寸法制度の高い定量化部品を組み込むことは、大きなハードルとなった。しかしステアリングメーカーの理解を得ながら定量的な数値に落とし込むことに成功。ポジティブな姿勢を失わずに開発を進めていった。そして2019年、いよいよステアリングタッチセンサーの量産開発が完了。本プロジェクトの開始から数えて約3年、中野が2008年に新事業開発部門でスマートラバーの研究に取り組み始めてからは、実に11年もの時間が過ぎていた。

SECTION 04

開発完了。しかしそれは、ゴールではない。

こうして誕生した住友理工製ステアリングタッチセンサーには、どのような特徴があるのだろうか。先行メーカーの製品との違いは、大きく3つある。まず、柔軟性が高く、湿度や温度の影響を受けにくいこと。また、熱伝導性が高く、ステアリング内のヒーターの性能が損なわれないこと。そして、接着剤などの溶剤を使用しておらず、環境に配慮された製品であること。他社製品を徹底的に分析して開発を行った成果が、この製品の中に集約されている。
自動車業界が100年に一度の変革期にあると言われている中、既存の枠組みとは異なる製品開発を成功させたことは、住友理工全体にとっても大きな前進だと言える。事実、彼らの挑戦は、他の部門で働く社員たちにも大きな刺激を与えた。しかし、そうした成果を残したにもかかわらず、プロジェクトメンバーの表情に安堵感はない。中野はこんな言葉で理由を語る。
「確かに、開発が完了した時は『ようやく終わった』という気持ちになりました。しかしその時同時に目の前に見えたのは、自分たちが次に進むべき道です。私たちはこれからステアリングタッチセンサーを量産し、拡販していかなくてはなりません。まだまだスタートラインに立ったばかりだと思っています」開発が完了したステアリングタッチセンサーは今、量産化に向けた準備が進められている。それと同時に行われているのが、第一次の開発品を超える性能を持つ次世代ステアリングタッチセンサーの開発だ。製品量産化に向けた準備を進める一方で、並行して次の開発にも力を注ぐ。終わりのないチャレンジは続く。
「今回のように開発初期から量産化まですべての流れに携わることは、とても貴重な経験です。改めて考えてみると、防振ゴムや自動車用ホースといった当社の主力製品も、私たちが入社するはるか前の時代にそうして生み出されたものです。過去の先駆者と同じ立ち位置で仕事ができ、同じ感動を味わえることに喜びを感じます」と山口は言う。最初の一歩を踏み出し、新しいものを生み出した経験を、彼らは次のステップにつなげようとしている。

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