住友理工株式会社

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2024年03月14日

「命守る」揺るがぬ思い 住友理⼯⼩牧製作所【⼯場ヒストリア・防災減災編】

住友理⼯ 中部主要 愛知⻄部(尾張) ⾃動⾞・部品

中日BIZナビ 2024年3月7日掲載、当ページは中日新聞に許諾を得て転載しております。

木造住宅用の制震ダンパーと開発担当の高田友和さん=愛知県小牧市の住友理工小牧製作所で

震度7を2度にわたって記録した2016年の熊本地震から2カ⽉後。住友理⼯(愛知県⼩牧市の⾼⽥友和(48)は被災地に⽴っていた。開発を担った「制震ダンパー」を備えた住宅の状態を⾒るためだ。倒壊した住宅が多数ある中で、使われた住宅は確かに損傷がなく、地震前と変わらない姿をとどめていた。

ゴムで和らげる

最も被害が大きかった熊本県益城町を含む被災地で、ダンパー付きの8軒の木造住宅はいずれも損傷なし。施工した取引先の工務店から「使ってよかった」と言われ、高田は「人を守るために必要な技術だと再認識した」と感じた。

制震ダンパーの開発を担当した高田友和さん

制震ダンパーは住宅やビルの壁などに組み込み、揺れを和らげる。国が基準とする「耐震」は壁で家を物理的に強くするが、地震を経るごとに強度が落ち、熊本では基準を満たして建てられたのに倒壊する家もあった。対して「制震」は装置のゴムなどが揺れを吸収するため、熊本や群発地震を経て起きた元日の能登半島地震のような繰り返しの揺れでも損傷を抑えやすい。

⾼⽥が勤める住友理⼯は旧社名の東海ゴム⼯業の時代から「⾃動⾞部品メーカー」として知られ、特に⾞の揺れを抑える防振ゴムは世界⼀のシェアを握る。⼩牧製作所(⼩牧市)は敷地の⼤半で主⼒の⾞部品を造るが、その⼀⾓にある平屋の「住宅制震⼯場」で、制震ダンパーは⽣産されている。

建屋内にうっすら漂うゴムのにおいこそ、核⼼部をこの地で造っている証し。地震の揺れを吸収するために開発した特殊なゴムは塊の状態から、機械で薄いシート状にする。ダンパー本体となる細⻑い⾦属に圧着して完成させると⼀点ずつ、製品の端から油圧の検査機で⼒を加えて性能を確かめる。

全ての製品が、地震の揺れを再現したこの検査を通る。現場を見守る化工品工場長の清水広一(56)は「お客さまに安心してもらうため、全ての品質を保つことが大事。必要不可欠な工程だ」と説く。

制震ダンパーの検査。油圧で力を加え、1点ずつ性能を確かめる=愛知県小牧市の住友理工小牧製作所で

住友理工は車で培ったゴムの技術を応用し、新たな市場を開拓しようと07年にまず鉄骨住宅用の制震ダンパーを発売した。大手住宅メーカーと共同で開発を進めたが、その道のりは苦難に満ちていた。

高田が住宅メーカーに試作品を持ち込み、住宅の一部に組み込んで試験をすると、ダンパーが揺れを吸収せず、守られるはずの住宅の側に変形が生じる。失敗を繰り返すこと1年半。両社でつくる開発チーム内から「続ける意味があるのか」と諦めの声が上がった。

最後のチャンス

「最後にチャンスを」と高田らが懇願し、両社の10人余りで臨んだ1泊2日の合宿。研修施設で議論を重ね、問題点を洗い出した。これまでデザイン性にこだわった形状や取り付け位置を試してきたが、合宿後、柱と柱の間に斜めに入れるシンプルな筋交い形にすると、核心部のゴムが確実に揺れを吸収する結果が得られた。

失敗が続いた原因は、制震ダンパー自体の性能にばかり目を向けていた点にあった、と高田は明かす。「車の部品でも、最終製品の車の乗り心地を考えて開発するのと同じ。壁や住宅全体のことまで考えて設計する視点が欠けていた」

この鉄骨住宅用の開発も生かし、2年後の09年にはより需要の大きな木造住宅用の発売につなげた。11年の東日本大震災、その5年後の熊本地震を経て出荷数は20倍に伸びた。能登半島地震の被災地から、備えていた木造住宅が損傷を免れた、との報告も届く。

「小牧製作所はものづくりのマザー工場」と語る酒井洋和執行役員

⼊社以来、⾞部品以外の部⾨を渡り歩いてきた執⾏役員の酒井洋和(58)は、胸を張る。「⾞で得た知⾒や技術は、何も⾞にしか使えないわけじゃない。いろんな分野で使えて、世の中の役に⽴てられる」

その中心こそが研究開発部門を備え「ものづくりのマザー工場」と酒井が呼ぶ小牧製作所。この地で生まれた制震ダンパーは、今や20万棟を超える住宅やビルを守っている。(文中敬称略)

本社ヘリ「まなづる」から
工場データ

愛知県⼩牧市東3の1。従業員数は本社や研究開発部⾨を含め2300⼈、敷地はバンテリンドームナゴヤ3.5個分。1960年、創業地の三重県四⽇市市などに次ぐ⽣産拠点として設⽴。64年には四⽇市市から本社も移った。⾞の防振ゴムやホース、鉄道⽤防振ゴム、制震ダンパー、橋りょう⽤ゴムを⽣産する。制震ダンパーは名古屋・栄で4⽉に全⾯開業する中⽇ビルや三交不動産(津市)の⽊造住宅にも使われている。⼩牧製作所の⼀般⾒学は不可。

住友理工小牧製作所の1960年開設時の様子