第三者意見対談 社会的責任から、稼ぐ力の源泉へ。株式会社大和総研 調査本部 主席研究員 河口真理子×代表取締役会長 兼 CEO 西村義明

ステークホルダーとの対話
株主・投資家、お客様、取引先、従業員、地域社会、地球環境

※ 本対談は、住友理工「統合報告書2015」に掲載されたものです。
※ 肩書きはいずれも当時。

利益の「質」を考える

西村統合報告書は2回目の発行となります。当社としては経営方針、ビジネスモデルなどの非財務情報を重視したいと考えてきましたが、これは若い従業員をはじめとする社内の意識改革に向けたある種の「運動」でもあります。

河口CSR(企業の社会的責任)を含む非財務情報は、現在の売上や利益に直結していないように見えるものの、長期的に見れば収益につながる要素です。

西村これまでの経営でESG※1はほとんど意識していませんでした。SRI(社会的責任投資)は以前から意識していましたが、先生のレポートを拝見してSRIの先にESG投資があるのだと再認識しました。その際、KPI(重要業績評価指標)をどのように設定するかは重要です。環境会計で環境活動の数値化を進めてきましたが、今後はESGで全体をマネジメントできる指標を見出していく必要がありそうです。ところで、最近は経営指標としてROE(自己資本利益率)が多く取り上げられていますね。

河口ROEは株主向けの指標です。株主のためだけに利益を稼ぎ出すというスタンスは、従業員とか、ほかのステークホルダーに無理強いすることにもなり、それはやがては株主自身にも跳ね返ってきます。ゴーイングコンサーンと言うように、企業には事業を継続させる責任があり、持続的に成長を遂げ、社会に役立っていくためには適正なステークホルダーとの関係を維持しつつ利益を上げるという文脈で「利益」を理解すべきだと思います。

西村確かに、企業経営ではあらゆるステークホルダーに配慮していかなくてはなりません。その指針がESGで、ステークホルダー全体の利益のバランスをとりながらROEを上げるのが理想ですね。

河口ROEを上げるために自社株買いを行う企業もありますが、本来は分子となる純利益を増やすことに注力すべきだと思います。資本効率も大事ですが単に分母の自己資本を小さくすることだけに注目するのは本来の意図と異なると思います。ROE8%目標を打ち出した伊藤レポート※2の主旨は日本企業の長期的な価値創造を達成するために産業界と金融界の協働が必要だということです。そしてその手段として、非財務情報を含めた統合報告書への期待も述べられています。これからは経営哲学、長期戦略、リーダーシップ、ESG要素などを多角的に見て、投資判断をする投資家が増えていくでしょう。

西村そうした視野を踏まえたKPIが必要になりますね。

※1 ESG:
Eは環境(Environment)、Sは社会(Society)、Gは企業統治(Governance)を意味する。企業が事業活動を展開するうえで配慮や責任が求められる課題。企業の投資価値を測る評価項目として注目されている。
※2 伊藤レポート:
一橋大学の伊藤邦雄教授を座長とする経済産業省のプロジェクトでまとめられた。企業と投資家を対立的にとらえるのではなく、「協創(協調)」の関係の中から持続的な成長を導くための指針で、「日本型ROE(自己資本利益率)経営」の浸透を目指すとされる。イノベーションによる長期的な視野に立った経営を促すものであり、非財務情報を重視している。

ESGへの流れをつかむ

写真

新しい投資家層にもアプローチしたい。

西村当社は、得意とする高分子材料技術をベースに自動車、ICT、インフラ、住環境、医療・介護・健康、資源・環境・エネルギーからなる6つの成長分野をベースに選択と集中を経て成長していくという長期構想です。ただし、決算説明会などで長期ビジョンの説明をしても、アナリストの関心は目先の業績のことに向いてしまいがちです。当期は特に業績が悪かったためその説明と対策にしっかり集中せざるを得ませんでしたが。

河口最近はESG専門のアナリストも増えていますから、ESGに特化したIRミーティングはいかがでしょう。たとえば「医療・介護・健康」事業や、「資源・環境・エネルギー」の社会的価値と成長シナリオについて、ESGアナリストと対話を進めるのです。

西村なるほど、新しい投資家層にもぜひアプローチしていきたいです。英国は半分近くがESG関連のファンドだと聞いたことがあります。

河口英国は金融立国であり、世界の金融をリードしたいという思いを強く感じます。彼らにとって、ESG投資は21世紀型の金融イノベーションの1つです。

西村わが国も日本版スチュワードシップ・コード※3の導入で機関投資家の行動は変わりますか。

河口今年6月11日までに191の機関投資家等が署名しました。その1つであるGPIF※4は、中期目標において「非財務的要素であるESGを考慮することについて、検討する」と述べています。こうした動きは加速すると思います。

西村当社は「2020年VISION」の検討段階ですが、ここでは必ずESGの考えを経営に取り入れ、結果として企業価値向上につながる質の高い売上や利益を実現しなければならないと考えています。

河口社会性が明確な新しい事業分野の方がESGは馴染むかもしれません。昨年、説明されたスマートラバーは電子的機能とゴムが持つしなやかな肌触りの両立がとても印象に残っています。お年寄りや子どもたちから受け入れられる製品が生まれる可能性を感じました。

西村スマートラバーは従来の常識を覆す導電性を持つゴムですが、人感センサなどさまざまな活用が期待できます。社会の役に立つ製品を多く生み出し育てていきたいものです。

※3 日本版スチュワードシップ・コード:
「『責任ある機関投資家』の諸原則」。企業の持続的な成長を促す観点から、幅広い機関投資家が企業との建設的な対話(エンゲージメント)を行い、適切に受託者責任を果たすとともに、行動の透明性を実現するための原則。
※4 GPIF:
日本における公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人の略称で世界最大の年金基金。2014年11月の運用方針の見直しで、運用資金における株式投資の比率を増やすと発表。

次の時代を見据えて……

写真

CSRはビジネス戦略の係数。

河口ビジネスの展開ではリスクにも目を向ける必要があります。自動車関連などは海外展開も課題ですが、海外では人権リスクや水リスクも挙げられます。中国で建設した工場が深刻な水不足に襲われ、やむなく移転せざるを得なかった例さえあるほどです。

西村当社の拠点も新興国に多くなったので、よりいっそうの注意が必要ですね。

河口そういったリスクを抑えながらも、ポジティブな面で機会をとらえることも重要です。最近は「国土強靭化」が叫ばれていますが、レジリエンス※5やエシカル※6もキーワードの1つです。

西村レジリエンスの観点からは巨大災害への備えも必要と考えます。当社は、大型建造物向け制震装置と並んで木造住宅向けの制震ダンパーもつくっています。エシカル製品とまではいえないかもしれませんが、環境対応では、窓に貼る「リフレシャイン™」という熱遮断フィルムがあります。

河口いずれも社会の持続可能性になくてはならない製品ですね。

西村また、先ほどお話しいただいたスマートラバーは介護用のアクティブマットレスや歩行アシストスーツなどの開発を進めています。また、盲導犬用に床ずれ防止用のマットレスの試作などにも取り組んでいます。

河口持続的に続けていくには社会貢献の価値をビジネスに生かす視点が大事ですね。ある不動産ディベロッパーの事例があります。山梨県の耕作放棄地に社員を連れて行って、みんなでお米や野菜をつくるという社会貢献の取り組みの人気が高く、その企業が開発したマンションの住民にサービスとして提案したところ高倍率の人気サービスになっているそうです。今後は田舎の畑付きのタワーマンション販売もあるのでは、と私は思っています。社会貢献活動が本業に寄与するという事例です。

西村CSRやESGにはステークホルダーの潜在需要を掘り起こす作用も含まれているわけですね。

河口社会貢献からスタートして、いつの間にか事業になるというわけです。

西村当社には「ビューティーキャラバン」という社会貢献活動があります。NPOや大学と提携し、高齢者介護施設などに入居しているお年寄りに晴れの日を演出し、いつも「その人らしく美しく」生きるきっかけづくりをするというものです。美容にはアルツハイマーへの効果も確認されており、健康・介護事業との連携も模索中です。

河口CSRというのは、ビジネス未満のステークホルダーのニーズに応えることでもあります。そのニーズが一定の大きさに育つまでは社会貢献のコストとして負担し規模が大きくなってきたら、ビジネスとして育てていく、ビューティーキャラバンもそうしたものの一つかもしれません。

写真

西村CSRにはそのような役割もあったんですね。

河口特に今の若い世代は、職場では出世より社会貢献を、モノを買う時もエシカルを重視する人が増えています。その人たちが主役になる時代に今から備える必要があるのではないでしょうか。

西村本業の自動車用品事業でも、調達担当者は若い人に代わっています。環境面や社会面での優位性を価値として理解してもらい、それを評価していただくという考え方もあるのかもしれないですね。

河口最近、CSRというのはビジネス戦略に対する係数ではないかと考えるようになりました。企業のビジネスに高い係数が掛け算されれば、企業価値そのものも高まるというわけです。ICTの発展で、今後ますますその方程式が見えやすくなっていくでしょう。

西村しっかりしたビジネス戦略を立て、CSR活動やESG要因を経営に統合することで、売上や利益にもつながるというわけですね。CSRはコストではなく、今や企業の“稼ぐ力”の源泉ととらえるべきですね。本日はありがとうございました。

※5 レジリエンス:
困難から立ち直る力などとして心理学などで使用されていたが、昨今はその対象が経済や防災にまで広がり、日本では国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)として注目されている。「強固さ」や「しなやかさ」で困難に適応する点が特徴と言われる。
※6 エシカル:
倫理的活動の総称。最近では環境や社会に配慮した商品を選択する消費活動を指すこともある。エコ商品やフェアトレード、地産地消なども含む。

住友理工株式会社

お問い合わせ お問い合わせ窓口をご案内します。